コラム #12
2017年8月4日公開
伝統と革新の「ひとりクールジャパン」
GLAMOROUS co.,ltd.代表/デザイナー森田 恭通
僕はこれまで海外においてひとりでクールジャパンを体現してきたと自負しています(笑)。海外での最初の仕事は30歳の時、20年前でした。香港の日本企業のレストランのフランチャイズ店のデザインで、仕事を始めてすぐ「これは大変なところに来たな。」と思いました。当時の香港は未だ色々整っておらず、文化の違いや法律の違いにも大変苦労しましたが、出来上がった店は香港で非常に話題になり、それを機に地元の大手デベロッパー達から依頼も頂きました。
次にニューヨークでレストランのデザインをさせて頂きました。トライベッカ地区の400坪という体育館のような広さの大規模プロジェクトで、完成までに3年かかり、その間に何度も工事が止まる、業者も変わるなどがあった末、オープンにこぎつけたのが MEGU New York です。
MEGU New York
これをデザインする時に考えたのは、昔からあるジャパンスタイルと違う“日本にない日本”です。当時は禅の世界の日本はあまり知られておらず、外国人の方がイメージするお祭りなどのエキサイティングなジパング、そちらに振ったデザインにしました。日本人の方にとっては「これは日本ではない。」と思われるかもしれないですが、よく見ると店のインテリアに瀬戸物のとっくりやお猪口など日本のものを沢山使わせて頂いています。MEGU New York は、海外ならではの事情や施工費一つ取っても多額の予算を必要とするプロジェクトでしたが、大繁盛し、驚くことにたった1年間で黒字化しました。そこから僕の人生で、「ひとりクールジャパン」がスタートしました。
MEGU Midtown
ニューヨークは世界で一番法律が厳しく、家賃も高く、人の見る目も一番厳しい。日本の感覚では1軒のレストランに多額の投資をすることも、更にそれが1年でペイすることも考えられないですが、毎日がパーティ、毎日が貸し切りでした。当時、現アメリカ大統領のトランプ氏も毎日お店に来ており、ある時彼が「今度はうちのビルに来てくれ。」と言うので家賃高いから…。と答えたら「相談に応じるよ。」という話になり、結果デザインしたのが、MEGU Midtown です。この2店舗により、ハイエンドな日本食レストラン「MEGU」は、当時のトップブランド「NOBU」とたった3年位で肩を並べるまでになりました。
ここからどんどん仕事が広がっていきました。この時思ったのは、日本らしさと新しい部分がミックスされ、ユニークさやサプライズが加味されることで、ひとつのブランドとして見て頂ける。日本人から見たら少し違和感のある日本かもしれませんが、まさにそれがビジネスになっていくので、そこは割り切って身の回りにあるものに少しの変化とオリジナリティを持たせて海外にプレゼンテーションをしていくのがいいと思いました。今までのものをそのまま持っていっても、「あぁ、お疲れ様。」で終わってしまう、だから“日本の伝統を守りながら、革新の部分で自分たちのオリジナリティを入れ、新たにエンドユーザーに提供したり場面を作ったりするのがクールジャパン”なのだと思います。
日本はいい意味で注目される国です。既に何回も日本を訪れている人も多く、僕より京都をよく知っている方もいます。日本のある店の1人5万円のお寿司をわざわざ飛行機に乗って食べに来る人もいる。そんな彼らに響く為には、真剣に向かい合わないといけません。そのため“海外の日本通の人が見てもオリジナリティのある本物を提供していく必要”があります。求められるレベルも高いですが、注目されているからそこに活かせるチャンスもあると考えています。
今年4月にジャカルタ、9月にカタールでデザインしたレストランがオープンします。ジャカルタは少しカジュアルで、カタールはホテルのメインダイニングと、それぞれ客単価も違うけれど、共通して言えるのは“その土地だからこそのデザインである”ということです。海外では特にレストランは誰と何のために行くかのシチュエーションが大切で、ただお腹を満たすだけでなく、人と人を繋げる、新しいビジネスの話をするなど目的が毎回違うので、現地のライフスタイルを汲み取ってデザインしないとならないと思います。国によってシチュエーションは違うけれど、その地域にないオピニオン、その地域のランドマークになるものを作るのも僕らの仕事と考えています。
また、海外のプロジェクトに20年携わらせて頂いている僕らだから出来る、例えばコストダウンの方法や、交渉などのノウハウの蓄積があります。1つのデザインに3年かかるのであれば、その間のコストについてきちんと交渉しないとなりません。海外のプロジェクトは、国内に比べて何割位の諸経費が必要なのかを認識した上で、覚悟をもって取り組むことが重要です。
もちろん最初から全て上手くいった訳ではなく、色々なことがありました。先方担当者が突然辞められ、気がついたら競合会社にいたりしました。海外で仕事するには精神的にタフなことも重要です。
デザイナー目線ではなく、ビジネス目線で見ても、日本のデザイン力はファッションでもアートでも海外で非常に評価が高く、まだまだチャンスはいっぱいあると思います。とはいえ、海外にもいいものはたくさんあるし、スペースもありますので、彼らにとって日本は選択肢の1つでしかありません。そしてメディアに取り上げて頂く為にも魅力的であるべきだと思います。
さらに、これからはメディアに取り上げられるだけでなく、実際に手に取ってもらったり体験してもらったりする“スーパーリアル”なことも重要だと思います。今は、いろんな情報が洪水のように溢れかえっていて、何が本当にいいものかわからなくなっているので、結局リアルを取り戻す時代になってきているのではないかと感じます。
僕がデザインしたクアラルンプールのISETAN The Japan Storeもそうですが、そういった日本の素晴らしいものやことをプレゼンテーションする場所、まさにスーパーリアルなスペースがこれから非常に重要になってくるのではないでしょうか。
ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur
PROFILE
森田 恭通(Yasumichi Morita)
GLAMOROUS co.,ltd.代表/デザイナー
1967 年大阪生まれ。2001 年の香港プロジェクトを皮切りに、ニューヨーク、ロンドン、カタール、パリなど
海外へも活躍の場を広げ、インテリアに限らず、グラフィックやプロダクトといった幅広い創作活動を
行なっている。
2013 年自身初の物件集「GLAMOROUS PHILOSOPHY NO.1」がパルコ出版より発売。
2016 年には全館に「クールジャパン」をコンセプトとする三越伊勢丹HD の新型店ISETAN The Japan Store Kuala Lumpur が完成した。
また、アーティストとしても積極的に活動しており、2015年より写真展「Porcelain Nude」をパリで継続して開催している。
http://www.glamorous.co.jp