コラム #5
2015年4月8日公開
多様性が生む日本文化のイノベーション
A.T. カーニー 日本法人会長/パートナー梅澤 高明
クールジャパンを支援する活動の一環で、海外からのゲストに日本のコンテンツを紹介する機会が多い。例えば、世界各国のクリエイティブ産業のプロフェッショナルや、MBAスクールの大学院生が東京に短期滞在するプログラムなどで、日本のポップカルチャーを紹介するワークショップを担当している。
これらのワークショップで、彼らの関心を最も集めるコンテンツは何だろうか?
例えば「KURATAS」というロボット (https://www.youtube.com/watch?v=29MD29ekoKI)。
全長4m、人が乗り込んで操縦することも、路上を走行することも可能だ。1億2,000万円で入手可能だが、機能価値はほぼゼロというこのアート作品が、外国人ゲストを強く惹きつける。
あるいは「初音ミク」のライブコンサートや、ミクがルイ・ヴィトンの衣装を纏って登場する未来型オペラ「THE END」(https://www.youtube.com/watch?v=UUxxYVbDxw0)。これを見たボリウッド(インド)の映像プロデューサーに、「Japan is just brilliant!」と言われたこともある。
日本初訪問の人たちでも寿司やラーメンは良く知っているが、オムライスやカツカレーなどの「日式洋食」を紹介すると強い関心を示す。
異質のコラボレーションと「リミックス文化」
KURATAS、初音ミク、日式洋食といったコンテンツに共通するものは何か?それは、テクノロジーとアート、東洋と西洋などの、異質のコラボレーションによる革新だ。
KURATASは、高度なソフトウェア技術と冶金技術により、アーティストの美意識がリアルなロボットに結実した。「アート+テクノロジー+匠の技」のコラボレーションだ。THE ENDは、現代音楽と日本のバーチャルアイドル、そして欧州のファッションブランドのコラボとも言える。一方、日式洋食やラーメンは、外来文化を受容し、既存のものと混ぜ合わせ、編集・洗練することで生まれた食のイノベーションだ。
日本は、古くは朝鮮半島や中国から、近代は欧州、そして戦後は米国から文化を大規模に輸入し、それらを固有の文化に昇華してきた。DJのように「リミックス」による価値創造を続ける日本の文化にとって、素材としての外国文化が豊富に入ってくること、それによりコンテンツの多様性が保たれることは、生命線とも言える。
クールジャパン戦略を進める上で陥りがちなのは、「日本らしさ」にこだわる余り、海外の受け手の関心を無視した「正しいジャパンコンテンツ」を押しつけることだ。「日本製の品質の良いモノを並べれば買い手が集まる」というのは幻想だ。世界市場での成功には、コンテンツのたゆまない革新と、価値を上手に伝えるキュレーションが不可欠だ。
“NeXTOKYO”とクリエイティブ移民
多様性の向上を通じてイノベーションを活性化する上で、TOKYO2020が大きなチャンスとなる。東京に起きる様々な投資を未来につなげるために、建築・都市計画、社会学、スポーツ、アート、ビジネスからなる8人の有識者チームを結成。東京の未来ビジョン「NeXTOKYO」を構想し、産業界や政府に提案してきた。
(日経ビジネスONLINE連載記事:business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140929/271844/)
提言の重要項目の一つが「クリエイティブ移民」の受け入れだ。世界からの注目が高まるこのタイミングで、文化やクリエイティビティをキーワードに日本を世界に開き、海外の人材や企業を積極的に迎え入れる。デザイン、食、ファッション・美容、コンテンツなどの分野で世界の才能を集め、TOKYOを世界一のクリエイティブシティに進化させることが狙いだ。
冒頭に紹介したワークショップなどの場でも、日本で働きたいというクリエイティブ産業のプロフェッショナルに出会うことが多い。
しかし現状では、日本での就労のハードルは総じて高い。
例えば食は、日本のポテンシャルが特に高い分野だ。しかし、料理人向けの技能ビザは、本国で10年の経験を持つ「外国料理」の熟練技能者が対象だ。外国人が、国内で日本食シェフになる道は閉ざされている。従って、日本食のレストランチェーンが、国内の調理学校を卒業した外国人料理人を雇用し、一定の育成期間の後に海外店に派遣するという人事戦略もとり得ない。
和食・外国食、高級レストラン・B級グルメを問わず、世界の若手シェフが日本に集まり、腕を磨ける環境を作りたい。
美容分野でも外国人労働者への門戸は閉ざされている。ヘア、メーキャップ、エステ、ネイルアートなどの分野も日本はトップクラスの技術を誇るが、国内の専門学校を卒業しても、技能ビザの発給対象外だ。特にアジアでは、日本式の美容サロンに対するニーズも強い。国家戦略特区の枠組みなどを用いて、クリエイティブ産業における就労ビザの対象拡大・要件緩和を進めたい。
クールジャパン戦略は、日本人だけでできる取り組みではない。クリエイティブ人材を世界から積極的に受け入れ、彼らの才能を日本から世界に発信し、また海外市場展開を牽引する基幹人材として彼らを活用することで、関連産業の真のグローバル化が進む。「クリエイティブ移民」の受入れを突破口として、日本のクリエイティビティをさらに高め、クールジャパンの展開を加速したい。
PROFILE
梅澤 高明(Tak Umezawa)
A.T. カーニー 日本法人会長/パートナー
東京大学法学部卒業、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営学修士。日本・米国の大手企業を中心に、戦略・マーケティング・組織関連のコンサルティングを実施。
グロービス経営大学院客員教授、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。著書に「最強のシナリオプランニング」(東洋経済新報社)。内閣官房「クールジャパン戦略推進会議」委員、内閣府「税制調査会」特別委員。